第一部 第二部 第三部 第四部 終章 後書 絵師 辞典 出口


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あのex鯖が無くなった日から一ヶ月がたった。
僕はavexのキャラクターとして働いていた。

ギコさんは死んだ。
VIPは無くなった。
2chは負けてしまった。

Vipperや2ch住人達の抵抗がavexの想像以上に強かったため、VIPだけを制圧して閉鎖させるよりも、他の板を巻き込んででもex鯖を落としてしまった方が効率的と考えたらしい。
現実世界から一瞬でex鯖のサーバー機の電源が切られたため、VIPや他の板で戦い続けていた人々が何の苦痛も感じずに死ぬことができたのが唯一の救いだった。

そして、あれから僕はあっという間にZENの黒服たちと削除人たちに捕まってしまった。
ギコさんの死体はそのまま方って置かれ、僕だけがavexに連れて行かれた。
死んでしまったAAに商業価値は無い、そういうことだろう。
彼等は僕を拘束すると、僕の頭に妙な機械を当てて二重の脳内規制処理を施した。
逆らおうという気は起きなかった。
逆らおうという気力が無かった。
2chのAAでもなんでもない僕が、avexに逆らって逃げ出したとして何になるのか分からなかった。
それに、今の僕はavexの命令に逆らうという事を考えられない。
ただ黙々とavexのために働いて、日々を浪費していくだけだ。

avexのキャラクターとなった僕に、最初に挨拶した僕の”クリエイター”役の人はわたではなかった。
わたはavex公式ページの鯖落ちに巻き込まれて死んでしまったらしい。
公式ページ襲撃の知らせを聞いたavexは、わざとわたに脱出させずに談話室に篭城させたのだという。
avexからすれば、我侭で小うるさく、扱いづらいわたをこの機に始末してしまおうと思ったのだろう。
鯖落ちしたavexの公式ページは一ヶ月経った今では完全に回復していた。
いつか、反抗的な2ch住人が事を起こしたときのために、別のサーバーにページを移動させる準備は整っていたらしい。

僕たちの突撃に意味はあったのだろうか。
そんなことを考えると、それは危険思想だ、と脳内規制が働いて思考を強制終了させられた。
そうだ、もう2chのAAでは無い僕には関係の無い事だ。

荒巻「ブーン、大丈夫?」

僕の横を歩く荒巻スカルチノフが聞いてきた。
スカルチノフ等、人気に陰りが見え始めてきた従来のAA達の代役として期待されていたAA達は、あらかじめavexの公式ページからは脱出させられていたらしい。
僕たちはavexから要らなくなったAAの処理もいつの間にか任されていたようだ。
ああ・・・結局僕たちはavexの手の上で踊っていただけなのかもしれない。
そこまで考えたとき、また脳内規制で思考が規制される。
いけない、これも危険思想だ。

荒巻「ブーン、調子悪いみたいだけど、ホント大丈夫?」

荒巻が心底心配そうに僕に尋ねる。
今回の仕事はニュー速のトップに飾られているavexの宣伝バナーに出演する事だ。
ニュー速はVIPがなくなった後に最も多くの難民を受け入れた場所なので、比較的VIP色が強い。
というより、元々VIPはニュー速から派生した板なので、VIPがニュー速に似ているのかもしれない。
いや、どっちでも同じような事なのだが・・・。
荒巻も他のAA達も僕が本当のブーンではないことは知らない。
元はVIPのAAである僕が、VIP色の強いニュース速報からVIPを連想して悲しむと思って心配しているのだろう。
荒巻自身もVIPの事で悲しんでいるのだろうに、律儀に他人の心配までするとは・・・、なんて人のいいやつなのだろうか。

( ^ω^)「何が?」

僕は荒巻の内心を把握しながらもとぼけてみせる。
別に、2chのAAですらない僕はVIPがなくなっても悲しみなど感じる事は無い。
だが変に勘ぐられても面倒だ。

( ^ω^)「そろそろニュー速だから準備しといた方がいいんじゃない?」

荒巻がさらに何か言う前にこちらから話題を無理やり変える。
荒巻が少し怪訝そうな顔をする。
おそらく僕の内心を察したのだろう。
僕は荒巻の気遣うような表情を無視して先にニュース速報の入り口へと歩を進める。

そう――――
    ―――悲しくなど、無い。

 

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