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エピローグ
「で、あるからして、是非ともこの公明党の―――に清き一票を・・・・・・」
家の外から選挙演説が何時だったかのネットラジオで聞いた事あるような声が響いてくる。
たしか、父親が地元の創価学会の支部長で、その後を継いでしばらくしてから公明党の推薦で立候補した人だ。
私はその選挙演説を鬱陶しく思いながらもPCの電源をつけ、ネットへ接続する。
ネットに繋ぐのはひさしぶりだった。
2chが無くなってから、もう十年以上も経つ。
流行り廃りの流れが急なネットで、十年という時間は現実以上に長い。
現実でも、かつて2chを縛っていたavexももう無い。
組織ぐるみでの脱税、社長のスキャンダル、今までavexの行ってきた非道な”商業活動”、そう言った数々の”不祥事”が報道されていき、経営不振が続いたavexは五年前にあっけなく倒産した。
当時、高校生だった私は、受験に集中するため、二年ほどネット断ちをしていた。
大学に浪人して、次の年に志望校に合格した私が、二年ぶりに2chに繋いでみるとVIPが無くなっており、相当ショックを受けた記憶がある。
当時はかなり長い間、心の中に悲しみを抱えていた気がする。
だが、しばらくするうちに2chも過疎が進み、別の新しい掲示板に人が流れ、いつの間にか閉鎖していた。
VIPが無くなり、2chも無くなった当時、私はだんだんとネット離れが進んでいき、最終的には一週間に一回程度しかネットには接続しなくなっていた。
・
私は特に理由も無く、TVをつけてみた。
TVでは深夜番組のマスコットとして起用されたジョルジュ長岡が元気に手を振っている。
今日見た昼の長寿番組にも荒巻スカルチノフがマスコットとして起用されていたのを思い出す。
結局、AA達の権利はavex倒産後も、あちこちの企業やらTV局やらに渡っていった。
私はその深夜番組に耳を傾けつつも、ネットの匿名掲示板のURLを打ち込む。
2chが無くなって十年が経ったネットでは、まったく新しい掲示板がかつての2chの役割を果たしていた。
そこで私は一つの情報を見つけた。
avexの不祥事報道が続いた時、avexの冤罪で不正ファイル共有、著作権侵害など、あらゆるネット犯罪の容疑をかけられて逮捕されていたひろゆきの疑いが晴れて出所してきたのだが、
今になって2ch閉鎖から十周年を記念して、再び2chを再開するのだという。
root、夜勤、マァヴ等、かつての運営メンバーも集合しているらしい。
あの切り込み隊長でさえも。
私は胸に大きな喜びと、懐かしさを抱えながらあのアドレスを打ち込んだ。
http://www.2ch.net
・
そこにはあの頃見慣れた壷の画像。
そしてそこをクリックすると表示されるスレ一覧。
私は迷わずその中からニュース速報(VIP)を選んだ。
この新しい2chでもVIPは無くなったままではないのかと心配もしたのだが、どうやら杞憂だったらしい。
そこには相変わらずの、あの頃のレスやスレがあった。
「あるあるwww」
「ねーよwwww」
「虫うめぇwwwww」
「どのアニメキャラの・・・・・」
「僕は神山満月ちゃん!」
この日ばかりは、AA達も解禁とばかりに、あちこちでAA達が使われていた。
なんでも、AA達の権利を握る企業たちを、ひとつひとつひろゆき達が説き伏せてきたらしい。
今日この日のためだけに。
だが、そのAA達の中に、VIPがあった当時私が最も好きだったあのAAの姿が見えなかった。
噂では、あのAAはavexのサーバーにわが身を呈して突っ込み、avexの連中と刺し違えたのだと言う。
だが、私にはどうしてもあのAAが死んでしまったとは思えなかった。
そんな時、あのAAを探してページをスクロールさせていた私の目に、あのAAが映ったような気がした。
両腕を広げて片足を上げて走り抜ける姿のAA。
あわてて上へとスクロールし直して、あのAAを探すが、その姿は見当たらない。
・
見間違いだったのだろうか?
いや、あのAAは確かにいたのだ。
あれはあのAAの挨拶だったのだ。
少なくとも私の中ではそういう事にしておこう。
「あれ?さっきブーンが書き込まれてたような気がしたんだけど?」
「お前は俺か」
「漏れも漏れも」
私のその考えを後押しするかのように、多くの人があのAAを見たという旨の書き込みをした。
それを影から見て、あのAAがいつもどおりの顔で笑っているような気がして・・・・、
その様を思い描いてつい私の口から笑みが漏れた。
私はマウスを操作し、キーボードを叩いた。
とりあえず糞スレを立てよう。
レスが十個程度しかつかないような、どうしようもないネタスレを立ててやろう。
ブーンが、内藤ホライゾンと名づけられたあのAAが、少しでも出て来やすいように。
【完】
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