第一部 第二部 第三部 第四部 終章 後書 絵師 辞典 出口


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目を覚ますとそこは見たことの無いスレの中だった。
どうやらギリギリで別のスレに逃れることが出来たらしい。
鯖落ちしていた間、僕のようなインターネット上の仮想生命は動くことが出来ない。
あのままあのスレの中にいたら、メンテの最中に確実に黒服の男達や(・ω・)のしと名乗る男に捕まっていただろう。

僕は辺りを見回したが、復旧したばかりだというのにVIPの住人達はさして喜んだ様子を見せず、何時もと変わらない暗鬱とした表情をしていた。
その中に僕は一匹の狐を見かけた。
元は整っていたであろうと思わせる毛並みは乱れ、煤や埃にまみれて汚れていた。
額にはその部分だけむしりとられたように☆の形に毛の生えていない部分があった。
彼は雑談するでも無く、煽りあうでもなく、ただそこに佇んでいた。

僕は気がついたら彼に声をかけていた。

( ^ω^)「どうしたんですか?」

狐は僕の方を見ると一瞬驚いた顔をして呟いた

狐「君は『━━━━』か、懐かしいAAに会え――」

そこまでつぶやいて彼は自分の発言が信じられないとでも言うように目を瞬かせた。

狐「そうか、今の俺はもはや”規制”される立場なのか・・・。」

彼はどこか自嘲気味に嘆いた。
その口が皮肉気にゆがめられる。

( ^ω^)「???」

僕には彼のつぶやきの意味がわからなかった。

狐「昔話をしよう。あるところに一匹の狐がいた。その狐は運営の中でもそれなりに責任のある立場にあった。」

狐は語りはじめた。

狐「ある日、ひとつの板が狐の手に任される事になった。最初はゴミ捨て場だったその板は住人達の必死の努力により、次第に2chでも有数の大きな板に育っていった。」

彼は遠くを見つめるような目をして僕に話の続きを聞かせた。

狐「狐はそれを微笑ましく思いつつも、ハメを住人達が外し過ぎないように、それが板のためになると信じて規制銃を撃ち続けた。時には嫌われることもあったけど、それでもやりがいのある仕事だったし、板が2chでも最大の板に育ったときは全てが報われたような気がした。」

そこまで狐は一気に語ると、急にため息をついた。

狐「でも、だんだんと2ch全体がある企業に蝕まれていった。それに対抗しようとして逆にその企業のキャラクターを奪い取ろうとした管理人は逮捕されてしまった。 残ったのは統率を失った運営人と削除人だけだった。」

僕は唐突にある情景を思い出した。
その情景の中で
僕は額に黒い★キャップのついた綺麗な毛並みの狐に頭を撫でられていた。
狐★「すまない。俺にはここが限界のようだ。」
★キャップをつけた狐は悲しそうに僕にそういった。
その後ろから黒い服を来た男達がやってきて僕のてを掴んだ。
「おい、さっさとそいつを引き渡してもらおうか。」
★キャップ持ちの狐は寂しそうな目で、まるで仕方なく子供を人買いに売る母親のような、悲しい目で僕をみていた。

・ 

狐「その狐をはじめ、一部の運営人は企業に下ることをよしとしなかった。」

狐は僕の夢想などお構い無しに語り続けた。

狐「しかし結局、その狐は、フラ板の有力コテ達や運営人達の策謀で管理者権限を剥奪された。当時あちこちで迷惑をかけていた、彼の管理する板の問題行為を不問にして存続させてやるという約束をとりつけ、彼は2chから姿を消した。」

彼の目には深い公開の念が浮かんでいた。

狐「そうだ、確かにあの時、形だけでもVIPを存続させることが住人達にとってはいい事だと思った。だが違った。クオリティーを無くして、くすんでしまったその板はもうVIPではなかった。殆どの住人達がVIPを見限って2chを捨てた。」


( ^ω^)「あなたは・・・あなたももう終わってしまったのですか?」

僕は思わず彼に問いかけていた。
彼の嘆きに、終わろうとしているこの板に、僕はその質問をしなければいけないような気がした。
それを問うことによって何かが生まれると思った。
それを込めて僕は問うていた。
それは儚い希望だった。
それは現実を受け入れず、抗い続けるための可能性だった。
それは現状をよしとしない者の願いだった。
それは―――――






         ―――――あの日、まだ産声を上げたばかりのゴミ溜めだったVIPで、僕たちが抱いた夢の残滓だった。

狐は長い長い、永遠とも思えるような沈黙の末、言った。
だが、狐が選んだ答えは、僕の望みを打ち砕くものだった。

狐「ああ。俺にはもう何も力は無い。完全に”終わってしまった”んだ。」

僕はうな垂れるとスレの出口へと向かった。

( ^ω^)「そうですか・・・。ためになるお話でした・・・。」

狐「もう行くのか?」

( ^ω^)「はい。ギコさんを探しているんです。」

去り際に僕は言った。

( ^ω^)「あなたのそのあきらめこそが、VIPを終わらせてしまったのではないですか?」

狐は僕の言葉に反応して、怒りの形相を浮かべた。
そして次の瞬間にはわんわんと泣き叫んでいた。

運営人として、心を殺し、規制銃を撃ち続けた男が、初めて2chで見せた涙だった。

僕は振り返らなかった。




 

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