第一部 第二部 第三部 第四部 終章 後書 絵師 辞典 出口


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その日、僕たちはavexや売2ch奴達に抵抗を続けるコテや名無し達の集まるスレを訪れていた。
あまり周囲に情報が漏れないように、VIPの最下層でひっそりと潜水を続けるsage進行が原則のそのスレで、僕達はコテ達に出会った。
そのスレには僕とギコさん以外にも10人程のコテと名無しが集まっていた。

恐らくVIP最後の騎士「ギコだけはぜってー守る。avex死ね。氏ねじゃなくて死ね。」
「つーか騎士本物かよ?ww」
「何年ぶりにVIP来てんだよコイツwww」
VIPの革命王子「妊婦の腹蹴りてぇwwwwwww」


ギコさんが彼等コテにavexや裏切り者のフラッシュ職人達と戦う準備をするために仲間を集めてほしい旨を伝えた。
みんな、僕の方をちらちらと見ているが、僕の名前を言うと”規制”されて居所がばれてしまうらしく、誰も僕には話しかけなかった。
僕はひとりだけ疎外感を感じていた。

恐らくVIP最後の騎士「つーか返り討ちにしてやんよwwww」
バカマイク「VIPが終わっても、終わらないものがあることを教えてやるぜww」
VIPの革命王子「池沼の女犯してぇwww」
27歳毒女「コテデビューから3年経ってもう30超えてるけどなwww」

ギコさんはそんな彼等のやりとりを見て頭を抱えていた。

ギコ「VIPのコテは、煽り耐性も高いし、煽りあいも他板のコテより小慣れているんだが、どうも個が強すぎる。正直、無茶苦茶扱いづらい。」

ギコさんは僕にそっと耳打ちした。
すると突然、ギコさんの表情が険しくなった。

ギコ「そーら来たぞ。」

ギコさんが唐突に言った。僕が周りを見回すと、あの魔少年を取り囲んだ時のように、再び黒服達が音も無く僕達を取り囲んでいることに気がついた。
集まっているコテや名無し達に比べてその数は倍以上は居るだろう。

ギコ「Avexのダミー会社のお出ましだ。そりゃあ今の過疎板と化したVIPの一つのスレにこれだけの人数が集まってこれだけの速さで議論すれば、転送量からバレるだろうな。」

ギコさんが心底面倒臭そうにそう言った。

ギコ「コイツ等は実態の無いダミー会社だ、まともに煽っても効果は無い、適当に戦って切り上げるぞ。」

ギコさんがそういい終えるか終えないかのうちに騎士が黒服達の群れの中心に移動していた。
黒服達に動揺が走るが、お構い無しに騎士が握った剣を一閃する。
騎士に一番近い場所にいた黒服の首が切れて落ちる。
黒服達が一斉に距離を取ろうとするが、騎士のレスの前にはその動きは遅すぎた。
さらに騎士の剣が黒服の一人の胴体を横薙ぎに切りつけた。
一刀両断にこそされなかったものの、その剣を半ば以上にまでめり込ませたその胴は、もはや誰がどう見ても”かつて胴であったもの”であって今では胴としての役割を果していないのは一目瞭然だった。

騎士のその攻撃を皮切りにしてコテや名無し達が黒服達に突撃していく。
数の差など物ともせずに彼等は手当たりしだいにZENの黒服達をなぎ倒そうとする。
ダミー会社でしかない黒服達はいくら倒してもまったく応えずにすぐ立ち上がってくるのだが、それすら意に介さずに突撃を続ける。

僕は完全に彼等の煽りあいに圧倒されていた。
これがVipperなのか。
これが数々の突撃をこなしてきた、頻繁に煽り合いの起こるVIPを生きたVipper達なのか。
僕の胸は我知らず震えていた。
僕が遠い昔に、彼等の先陣を切って走り回っていた頃を、思い出せないはずの過去を思い出していた。

ギコ「どけ!!!」

ギコさんが僕に叫び、僕を遠くに押し飛ばした。
いきなり僕の真上に六角形の形をした妙なAAが落ちてきた。
ギコさんが押しのけていなければ僕はこのAAに押しつぶされていただろう。

ギコ「コリンズか・・・。もう四年以上前に廃れていたと思っていたが、貴様もavexに下ったか。」

どうやらこのAAはコリンズと言うらしい。

コリンズ「コリキンや千葉のアフォがavexに商業化の価値を見出されずに完全に死んだからなww 2chに来るのは久しぶりだが、随分と小生意気な糞コテが増えてるじゃないかwww」


そこら辺でコテや名無しと戦っている黒服達とはあきらかに違う貫禄と存在感に僕の膝が震えた。
間違いなくかなりの煽り耐性と煽り合いの経験を持った相手だと認識させられる。
VIPのコテや名無しだけでなく、味方のはずの黒服達でさえその動きを止めている。

だが、その中で唯一つ動く影があった。
騎士だった。
一陣の風となって疾走の体制から一気に抜き打ちでコリンズに剣をたたきつける。
その剣はコリンズの硬そうな外見の体を一気にたたき切った。
だが、それでもコリンズは余裕で笑っていた。

コリンズ「Vipper、Vipperって粋がっててもこんなもんかww」

次の瞬間、コリンズの数が数十にまで増えた。
その場の全員が凍りつく。

ギコ「コイツのコピペと粘着力を甘く見るな!全員早くこのスレから脱出しろ!」

ギコさんはそういいつつ銃の形をした削除デバイスを取り出し、そのまま近くに居たコリンズたちの一匹を打ち抜く。
規制銃だ。

ギコ「何、運営人の中にもavexの支配を快く思わずに、俺達みたいなのに期待してくれてる奴がいる。それだけだ。」

何故ギコさんが規制銃を持っているのか疑問に思ったのが顔に出ていたのだろう。
ギコさんは僕に向けてシニカルに笑いながら言った。

だが、撃たれたコリンズ達はまったくこたえていない。
コリンズはニヤニヤと笑いながらその数をどんどん増やしていった。
コテや名無し、黒服達までもがスレから逃げ出そうとする。

コリンズ「こんなスレ潰すのなんか、わけねーんだよwww」

いかにも厨房然とした口調でコリンズが言った。

ギコ「早く逃げろ!コイツはコピペでスレを埋め尽くすまで無限に増え続けるぞ!」

ギコさんのその声が急いで走る僕らの後方に消えていく。
銃声が何度も響く。
僕らのために時間を稼いでくれているらしい。

僕はいそいでスレの出口に飛び込むと、スレの中を覗き込んだ。
スレは今にもコリンズAAのコピペで埋め尽くされようとしていた。
その時、丁度名無しの一人がスレの出口に向かって走ってきた。

( ^ω^)「早く飛び込むお!!!!」

僕は叫んで彼の手を掴んで自分の方に引き寄せる。

 ――――瞬間、スレがDatの海に沈んだ。

( ^ω^)「・・・・・・・・・」

僕の手にはひじから先だけとなった名無しの腕が残されていた。
何故だか、目から暖かい物が流れた。

僕はその手を丁寧にDatの海の中に沈めた。

( ^ω^)「・・・・・・・・・」

あれほど煽り耐性もあり、煽りあいの強かったコテや名無し達があっという間にやられてしまった。
おそらくギコさんもあのAAが出てくることは想定の範囲外だったのだろう。

僕は僕以外にもスレから逃げ出せた人たちを探して歩き出した。
VIPの底に広がるDatの海が、僕をあざ笑うようにその大きく暗い口を広げていた。 


 

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