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Flash50「そうね、VIPごと潰せばいいんだわ。」

馬鹿とハサミは使いようと言う言葉があるが、目の前の馬鹿がそう言った時、
大佐はその馬鹿の馬鹿発言をどう利用して最善の策を練ればいいのか分からなかった。
思わず”今度は何を言い出すんだこの馬鹿は”という内なる思いを表情に出しそうになったが、なんとかそれを押し隠した。

今日まで大佐は、この突然VIPの運営の全てをavexの後押しで任された馬鹿の思いつきで散々に奔走していた。
突然、VIPのトップやリンクページに飛ぶときに表示されるページに貼られた広告のバナーを、もっと広告収入の多いものに変えようと言い出したり、
その広告を突然外して自分がイベント取締役になっているFlash★Bomb 07の宣伝Flashと差し替えて、そのFlashの重さでサーバーから送り出す下りの情報量が増大し、転送量が大幅にあがってしまった。

そういったトラブルが起こるたびに大佐はそのトラブルを解決するために奔走し、今では胃に穴が開きかけている。
Flash50の意向に逆らいつつも、内密にトラブルを処理し続け、表面上は生真面目で従順な振りを続け、クリエイターとしては有能かもしれないが、実務能力ゼロの形だけとはいえ上司のFlash50を支えるていた。
Flash50が運営権限を持っているのはavexからの意向なのだ。下手なことは出来ない。
その二重職務が彼に尋常ならざる負担を強いていた。
大佐は何時ものように痛み出した胃に少し苦々しげな表情をしながらも、すぐにそれを温和な笑顔の下に隠してFlash50の顔を見た

Flash50「まさか、ブーンとギコを捕まえるだけだというに、ここまでこちらに被害が出るとは思わなかったわ。
      あの二人を失うのは惜しいけど、抵抗してきてる連中もいい加減に鬱陶しいし、VIPを”鯖落ち”させて陰気臭い住人達と一緒に抵抗勢力を一掃するわ。」

自分の考えがとても素晴らしいもののように感じるのか、Flash50はいいテストの結果が返ってきた子供が、それを友達に自慢するような態度で話を続ける。

Flash50「ラウンジやニュー速住人がしつこく抵抗を続けてる今、こんな過疎板に何時までも時間を割きたくないの。
      それに、こんな問題はさっさと解決してFlash★Bomb!の準備をしたいし。VIPを潰す準備ならもう整っている―――」

そこまで言ってFlash50は”ボシュッ”という空気の抜けるような音が連続して響いた事に気がついた。
目の前には何時もと変わらぬ大佐の穏やかな笑み。
しかしその右手には何時の間に握られたのかサイレンサー付きの銃。
その銃口から煙が吐き出されるのを見て、Flash50はその銃口の先に自分が居る事に気付き、自分の体を見下ろす。

何時の間にかFlash50の腹が朱に染まっていた。

Flash50「な・・・・・ッ!!!」

自分が傷を負っていると認識した瞬間、傷口から押し寄せる灼熱感。
Flash50は混乱する頭でなんとかその傷口の止血をしようと考え、両手を傷口に持っていき抑えようとする。
だが再び”ボシュッ”という空気のぬけたような音が二度響くと、自分の両手の甲に小さな穴が開き、そこから血が噴出した。

Flash50「何をして――」

「何をしている」と目の前で銃を掲げる大佐に問おうとした瞬間、自分の喉からも灼熱感を感じた。

大佐「『何をしている』とでも言いたかったのかな?あんたの腹と両手を打ち抜いて、たった今あんたの喉を掻っ捌いたんだよ。見てわからないのか?さすが馬鹿女だな。」

あざけりに満ちた大佐の言葉。しかしその表情と声音は何時もどおり優しげで、夜の海のように穏やかだ。
そして何時の間にか振り切った姿勢で伸ばされた大佐の左手には、物を切るためだけに特化した、血に濡れたギザギザした牙をいくつも持つ大型のサバイバルナイフ。

Flash50は何かを喋ろうとするが、喉に穴が開いているため、彼女の口からはヒューヒューという気の抜けた音しかでてこない。

大佐「もううんざりだよ。もう茶番はたくさんなんだ、Flash50。」

それだけ呟くと、もう大佐はFlash50を見ようともせず、手にした無線に何事かを呟く。
大佐は何時の間にか如何にも軍隊然とした軍服の上着を、袖を通さずに体にかけていた。
その厳しい軍服は柔和な大佐の顔や雰囲気にまったく似合っておらず、それゆえに見るものに威圧感のようなものを与えていた。
次の瞬間、VIP運営陣・本営の構造物内のあちこちで銃声や爆音が響いた。

そして大佐の手にした無線機からは次々と大佐の賛同者達からの入電が大声で入る。

「こちら第4分隊(セクション)、情報室を占拠。」
「こちら第2小隊(プラトゥーン)、玄関に機関銃砲座を設置完了。」
「こちら第10、11分隊(セクション)、Flash50旗下のFlash職人3名を射殺。」
「こちら第3砲兵中隊(バッテリー)、屋上に機関銃砲座を・・・・・」
「こちら第2中隊(カンパニー)、裏口から運営陣構造物内に侵入完了、これより大佐の決起を支援する。」
「こちら第4砲兵中隊、これより構造物内に侵入を開始、ただちに砲座を設置して大佐の決起を・・・・・・・・」
「こちら第4小隊(プラトゥーン)、Flash50旗下に下った削除人達の排除を・・・・・・・」
「こちら第1分隊(セクション)、これより・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「こちら第12分隊・・・・・」
「こちら・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」

その無線に入ってくる会話の数から簡単な大佐の部下の数を見積もってFlash50は愕然とした。
どう考えてもその数は200人を超えていた。
恐らく、VIPの運営陣内の部下だけでなく、他の板の運営人、削除人、それこそ2ch内外の大佐の友人関係からも大佐の決起の支援者が居るのだろう。

大佐「こちらRHQ(連隊司令部)、了解した。この決起を支援してくれた諸君等231名に心から感謝する。」

やはりどこまでも穏やかな、しかし毅然さを感じさせる声で大佐が言う。

Flash50は何事か言おうとしつこく口を動かし続けるが、やはり喉に作られた二つ目の口のせいでそれはまったく言葉にならない。
静かな執務室の中にFlash50の裂けた喉からでるヒューヒューという音だけがこだまし続ける。

大佐「うるさい。耳障りだ。」

それだけ言うと大佐は手にした銃でFlash50の眉間に穴を開けた。
だが常と変わらないその声にはまったく怒りや嘲りは篭っておらず、むしろ慈悲さえ感じさせるほどの温和さが篭っていた。
Flash50は数回体を震わせるとすぐに動かなくなった。
Flash板の職人達を束ねてきた女の、あっけなさすぎる最後だった。

大佐は口うるさいだけで無能な上司を始末し、二度と悩む必要の無くなった胃痛を考えて、開放感からか天を仰いだ。
執務室内の何度も瞬いていた蛍光灯は、大佐が見上げるとしばらくして瞬くのをやめて安定した光を放ち始めた。

(まだまだやれるようだな。俺もこの蛍光灯も。)

だが、その蛍光灯の輝きは、どこか燃え尽きる前の線香花火のようにも見えた。
大佐は自分のその感慨に気づかない振りをした。


 

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