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ギコ「ここまでしなくてもいいだろうに。ただ通販を利用しにきただけの人間がこの中にどれだけ混じっていることやら。」

刃物で無残なまでに解体されつくした死体を見ながら、
ギコさんが特に感情を感じさせない声で言った。

それでも僕たちは歩き続けた。

やがて死体の中に座り込んでいる男を見つけた。
最初、僕は彼を見つけたとき、死体だと思った。
彼は床に広がる血に全身を濡らしながらもその場に座り込んで佇んでいた。

ギコ「俺達の前に突撃してきたのはあいつ等らしいな。」

ギコさんが呟く。

僕たちに気づいたようで、座っている男が顔を上げて僕たちを見上げる。
その体中には銃創のようなものがいくつもできていた。

「ギコにブーンか。やっと来たみたいだな。」

男が今にも消えそうな小さな声で言った。
2chの外に出たおかげで”規制”されることがなくなった僕の名前を呼ぶ。
僕は久しぶりに”規制”される事無く聞くことができた自分の名前に、どことなく自分の名前ではないような妙な感覚を感じた。

ギコ「ここで日と暴れしたのはお前か?だとしたらお前、何者なんだ?」

ギコさんの口から誰何の声が上がる。

「俺はコテ雑スレの名無しさ。お前らが突撃するって触れ回ってるのを見て、王子が一足先に突撃してお前らを驚かせようとか言い出したんだよ。」

男が笑いながら言った。
体中を自分と他人の血で染めながらも、その目の光は自分の死に対する恐怖や苦痛を訴えてはいなかった。

「お前ら、鯖を目指してんならそこの扉からBBSを経由して行くといいぜ。avexの警備員の連中、この先から出てきやがるからな。」

男が男から見て右側にある扉を指差した。
外の惨状を知らないのか、扉の内側からは雑談する声が漏れてきた。

「俺はもう動けん。そのうち武装した連中がさらにここになだれ込んでくるだろう。お前らはさっさと行け。他のコテ雑のコテや名無しも既に奥へ向かっている。」

僕たちが何か言う前に男がすばやくそういった。

ギコ「死ぬぞ。」

ギコさんが傷だらけで動けない男に向けていった。
男の意思や真意を尋ねる問いではなく、事実だけを端的に言い、断言した。

「どのみち、何をしたってもうすぐ俺は死ぬさ。」

男が迷わずにぴしゃりと言った。
だがその声はすでにかすれ、目の焦点は合っていなかった。

( ^ω^)「・・・・・・・・・」

僕たちは何も言わなかった。

「最後に、頼みがある。俺を通路のもう少し奥に運んでくれ。奴らの目につき易いように。」

男が言った。
僕たちは無言で頷き、彼の血を吐き出して軽い感のする体を通路の奥の真ん中に運んでやった。

「これで、BBSの中の一般人は巻き込まないで済むな。」

殺しておいてなんだがほとんど無関係の人間を巻き込むのは気が引ける、と彼はかすれた声で続けた。
男の表情が満足げなものに変わる。

僕たちは急いで男の指差したBBSの入り口になっている扉へともどり、その扉を開けた。
地獄の一丁目の先はさらなる地獄なのか、はたまたその地獄への単なる通過点に過ぎないのか・・・・。
扉が開いていくのが、やけにゆっくりに見えた。 


 

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