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「ちょっと!!!!ピザまだ来ないの!!!!!!」
avex公式ページのパスを持つものしか入れない関係者用の談話室で、avexの抱えるクリエイター達の中でも一番のヒットメーカーである肥満気味の女が叫び散らしていた。
いまだ根強い人気を誇る”のまネコ”や”おにぎり”の作者でもあるわただった。
わた「注文してから何時間た経てると思ってるの!!!!!なんでまた届かないのよ!!!!」
室内に反響するヒステリックな声に、その日偶然公式ページを訪れていた、同じavexのクリエイター達が眉をしかめる。
”何時間経ってる”と言われても、ピザを注文してから三十分経っただけなのだが、そのことを指摘する者は談話室の中にはいなかった。
今日、この談話室に集まっていたクリエイター達の殆どがわたの後輩に当たる上、わたの先輩にあたるクリエイターも、数々のヒットキャラを生み出してきた看板クリエイターであるわたを表立って注意することはできない。
場に苦笑いと憂鬱そうな、嫌な雰囲気が漂う。
「きっと、入り口のところの侵入者騒ぎで配達の人が入れなくて困ってるんじゃないですか?」
二週間前にクリエイターとしてavexと契約を結んだばかりの新人が済まなそうに言った。
・
「僕がちょっと行ってきて、裏口から配達の人探してピザ持ってきましょうか?」
さらに新人がそう続けた。
わた「頼むわ。早くしなさいよ。」
わたは「気が利くじゃないか」とでも言いたげに目を見開いてその新人を見ると、わずかな苛立ちを見せながら言った。
周りのクリエイター達が気の毒そうにその新人を眺める。
新人はその視線を背に受けながらも小走りで談話室を出て行く。
わた「こんな事になるならもっと沢山ピザ頼んどけばよかったわ。」
わたはそう言うと、体の脂肪を揺らしながら、部屋の中をうろつき回る。
じっとして待つのが我慢できず、その苛立ちを少しでも紛らわせようというのだろう。
”こんな事”とは、今公式ページ内で起きている荒らし騒動の事だろう。
彼らは妙な集団によって公式ページ内の各所が荒らされた当初、さっさと公式ページの裏口から逃げ出そうとしたのだが、
どういうわけか、avexの本社から、”パスが無いと入れないその談話室にこもっていた方が安全だ”という旨のメールが届いたのだった。
彼らもだんだんと情報を掴んでいくうちに、敵の狙いは円形になっている公式ページの構造物の中心にあるサーバーであると知り、
自分たちのいる談話室から敵の進入経路が、サーバーを挟んでちょうど反対側になっているので、完全に安心しきっていた。
だが、なかなか荒らしは収まる気配を見せず、この談話室でさらに時間を潰さなければならなかった。
・
しかし、わたは既にLサイズのピザを三枚(「ピザをピザで挟んだピザバーガー!」:本人談)も注文しているのだが、「もっと注文しておけばよかった」とは、彼女にとっては三枚程度のピザはさしたる量ではないらしい。
やがて、他のクリエイター達が部屋の中を規則的に往復し続けるわたに、鬱陶しそうな視線を向け始める。
だが待てども待てども新人は戻ってこない。
流石に、新人の身に何かあったのでは?とクリエイター達が心配し始めたころ、談話室のドアがノックされた。
「誰だ?」
「あいつじゃね?ピザ三つも運んでるから手が塞がっててパス打ち込めねーんだよ」
「ちょっと俺、ドア開けて手伝ってやってくるわ。」
そういった会話の後、彼らの中から二人が談話室のドアを開けて、ピザを運ぶのを手伝ってやるべくドアに向けて走っていった。
敵がわざわざサーバーのある場所を迂回して裏口近くにあるこんな場所までくるはずが無い、という思い込みが彼らの警戒心を緩めていた。
先頭の男がドアを開けて顔をドアの外に出した瞬間、そのまま前のめりに倒れた。
(おいおい・・・・何転んでんだよ。)
後続の男が苦笑しつつ、倒れた男を起こしてやろうと近づこうとして、転がってきた何かに足をとられて前のめりに倒れこんだ。
扉が再びノックされた時、男の首から先がちょうどドアから出る形になった。
・
(・・・・・あ?)
男が先頭に立ってドアを開けた男の体に、頭がついていないことに気がついた。
頭がなくなった男は時折、指先をビクビクと動かしていた。
それを見ると、男は妙に冷静に「気持ち悪いなぁ」と感じた。
知り合いの首が途中からなくなっているその様は、どこかシュールで現実感が全然なかった。
やがてその”首なし”のもともと首があったであろう部分から自分の足元にむけて血の跡が続いているのを確認したとき、男は冷静な頭で考えた。
(・・・・まさか、俺がつまづいた者の正体は―――――)
そして男の思考はそこで途切れた。
男の首は、鉄の塊によってちょうど真ん中から頭のついた側と胴体の側に分かれて転がった。
知性の輝きを失った男の目が、男を覗き込むようにニヤニヤ笑いながら包丁を構える男を捕らえた。
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