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avex公式ページの一角、保安部署で警備の責任者である男が頭を悩ませていた。
公式ページ内に突撃してきた荒らし達の大まかな動きは掴んでいる上、モニターにはゾヌの大群が荒らしの一団の息の根を止めるべく、隊列を作っているのが映っていた。
しかし、どういうわけか突撃してきた連中の最終目標にして最大目標であるだろうはずのサーバーを通り越し、迂回しながらあちこちで荒らし行為を続ける一団があった。
責任者の男が荒らしたちの目的が実はサーバーでは無いのではないだろうかと思い始めたその時、唐突に保安部情報室の扉が開いた。
情報室内の警備員達が警戒と共に扉を見るが、入ってきた人物を確認すると安堵とともにモニターや通信機へと向き直る。
情報室へと入ってきたのは、先ほどピザの配達人を探しに行くといって談話室を飛び出した新人のクリエイターだった。
彼の持っている関係者用のパスで、この情報室に入ってきたのだろう、彼は警備の責任者である男に近づいてきた。

「何かあったんですか?」

警備の責任者である男が新人クリエイターに問いかけた。
男はこの新人クリエイターには快い印象を抱いていた。
というのも、この新人クリエイターは何かと他人に対して気が回るし、男とは会うたびに挨拶や雑談を交わす仲だったからだ。

「実は、聞かなければならないことがあって・・・・・」

新人クリエイターがどこか申し訳なさそうな声で言った。

「それは緊急の用事でしょうか?現在は立て込んでありまして・・・・」

男がそう言うのに構わずに新人クリエイターは男の目の前まで接近する。

「お前の役割はなんだ?」

新人クリエイターが唐突に質問を投げかけた。
どこか抽象的なその質問に、どのような言葉を返すべきか迷いつつも、丁寧な物腰で言葉を返す。

「役割・・・・ですか、あの、何のことでしょうか?」

冷静に言葉を選んで返しつつも、男はどこか違和感を感じていた。
この新人はこんな非常時にいったい何を聞きにここに来たのだろうか・・・・、そんな雰囲気が部屋全体に広がり、他の警備員達も胡乱げに新人クリエイターを眺める。

すると、新人クリエイターが声を一変させて、いや、声だけでなく顔も一変させて言った。

「てめー、あの神映画、”Survive Style 5 +”をしらねーのかよ。何様だ糞ヒキ野郎。」

銃声。
警備の責任者の男の眉間に風穴が開いた。
その瞬間、一斉に他の警備員達が立ち上がり、顔を変えて新人クリエイターとしてavexに潜入していた男、馬愚那に銃口を向けた。
警備員は誰だとは問わない。
彼らの上司が殺された以上、どう考えてもこの新人クリエイターを装っていた男は敵であり、敵を速やかに排除するのが彼らの使命だったからだ。
しかし、警備員達の銃口から放たれた銃弾は、虚像を通り抜けるように馬愚那の体を素通りする。

馬愚那「って事はあの伝説の名台詞、『ホモじゃねーよ・・・・、ゲイだよ!。』もしらねーのかよ。」

馬愚那は冷静に、一人ずつ警備員達の頭をポイントしていき、頭に風穴を開けていく。

馬愚那「浅野忠信の名演も見てねーのかよ。こんな狭い部屋に引きこもってモニター眺めてねーで、映画のひとつでも見ろっつーの。てめーらNGだ、NG。脳内NGだクソヒキニートどもが。」

どういうわけか銃撃も刃物での攻撃も効かない馬愚那から逃れようと、情報室のドアに手をかけた者の後頭部に穴が開く。
馬愚那は冷静に逃げようとするものから順に撃ち殺していった。

一人の警備員が大口径のライフルを発砲する。
銃弾は口径の多きものほど威力は上がるが、ライフル弾ともなるとさらに威力は跳ね上がる。
警備員の撃ったそのライフルは装甲車でさえ撃ちぬけるほどの大きなものだった。
しかしそのライフル弾は馬愚那をあっさりと通り抜け、後ろから馬愚那に照準をあわせていた同僚の腹を吹き飛ばして、あたりにちぎれた小腸を撒き散らした。

馬愚那「『>>弾丸が見えない』。存在しない弾丸なんて当たるわけが無い。」

その強い想像力と意志で脳内で勝手に弾丸をNGにして”存在しない”事にしている馬愚那には、どんな攻撃だろうとかすりもしない。
削除デバイスを使えば何とかなるだろうが、デリケートな機器の多い、ページ内の管理機能が密集しているこの情報室では、それらの機器を誤って”削除”してしまわないように、
削除デバイスの使用が禁止されている。

数分をかけて情報室内の警備員が順番に、絞首台に上らされる受刑者のように、正確に頭を撃ち抜かれていった。

馬愚那は倒れ付す死体達には目もくれず、情報室の機器をいじり始める。
あちこちの計器や機器に血がこびり付いているのだが、それらをすべて脳内NGにしているため、一切ためらわずに機器をいじっていく。
彼はそこら辺のプロフで公開されていた顔写真を保存、それを使って顔を変えると、その画像の張ってあったプロフを荒らして閉鎖に追い込み、完全に抹消。
変えた顔を使ってクリエイターとしてavexにもぐりこみ、あちこちを嗅ぎまわっていた。
何時か、公式ページ内を完全に把握したら、ギコやブーン達を焚きつけてやろうと思っていたのだが、
今日彼らが突撃してくるのを見て、その手間が省けたと思い行動を開始した。

馬愚那は情報室のコンソールを操作すると、avexの所有する他のページのサーバーや、avexとは全く無関係なサーバーを経由させて公式ページに攻撃を始めた。
いったいどれほどの効果があるかはわからないが、いずれ訪れるチャンスのためにそのまま待機した。
そう、彼はとある”チャンス”を待っていた。
そのためにギコやブーン達を焚きつけるつもりだったのだ。

馬愚那「・・・実際にチャンスがあるかどうかはわからないけど、あそこに加わるよりはマシだろうね。」

馬愚那の視線は、公式ページ内の一室を映すモニターに注がれていた。
そのモニターの中では、ゾヌに特攻する騎士達に新しく登場したコテや名無し達が合流していた。
彼らの田代砲や銃撃で乱れたゾヌの隊列に向かって、コテや名無し達が突撃していく。
隊列の乱れで動きが鈍っていたゾヌ達がどんどん血の海に沈んでいく。
だが馬愚那は彼らコテや名無し達を悲しそうな、寂しそうな目で見つめていた。
今は彼らに新しい仲間が合流したり、敵の足並みが乱れたことで勢いがあるが、時期に戦いは彼らに不利なものになるだろう。
あの数のゾヌを相手に三十にも満たない数のコテや名無しだけで勝てる道理は無い。

馬愚那「・・・・・・・・・・・・」

馬愚那は冷静にそのモニターの映像を脳内NGにした。
彼らがこれから追い詰められていくであろう様を想像すると、きっと馬愚那はこの部屋で”チャンス”を待ち続けることができないからだ。 


 

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