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フサギコが鍵を持っていた扉をくぐってから、サーバーに続くという通路の床や壁にはだんだんとゴチャゴチャとした機械やケーブルのような物が増えていった。
僕はこのケーブルを切れば、この公式ページ内のなんらかの動作に支障を与える事ができるのではないかとも思ったが、何が起こるか分からなかったのでやめておいた。
さらに通路を奥へ進むと、床や壁一面をケーブルやよく分からない機器が埋め尽くしていて、まるでケーブルの束の中を、いや、機械の内臓の中を通っているようだった。
足場が安定しないため、どうしても僕の走る速度は遅くなる。
急がなければいけないのに。

扉のある部分だけケーブルが走っていないのだが、扉はどれも厳重に施錠されていて開く事はできない。
田代砲を撃てば扉ごと錠を壊せるかもしれないが、今はその時間が惜しい。
一秒でも早く
走り続けていると、やがて大きな扉が正面に現れた。
僕は田代砲を撃って扉のロックを外そうとする。
一発目、壊れない。
二発目、扉の取っ手部分が真っ黒になる。
三発目、取っ手の部分が砕け、扉を貫通する穴が開く。

僕は扉を蹴り飛ばし、無理やり中へと入る。
部屋の中―――公式ページの中心にして、円形の公式ページの建造物を支える巨大なサーバーのある部屋。
部屋を開けた瞬間、目の前に飛び込んでくる、まるで世界全体を支えているかのように巨大な円柱型のサーバー。
そして、

その円柱型のサーバーの後ろ側、僕から隠れるように潜んでいた黒服達が、太った女を先頭にして飛び出してきた。
わただった。

ブーンがサーバーのある部屋への扉を開く三十分ほど前の事だった。

革命王子がクリエイター達の詰める談話室に入り込んできたとき、わたはもうひとつの出口から真っ先に逃げ出した。
革命王子が談話室に残されたクリエイター達を殺すのか、殺さないのか、情報を引き出すのか、何にしても自分が逃げるだけの時間は稼げるだろう。
そう思ったわたは必死で通路を走った。
丸々と太ったその体型で、どうやってそんなに身軽に走れるのかというほどに走り続けた。
どこをどうやって走り抜けたかは覚えては居ない。
その脂肪にまみれた足を動かして、時には腹回りに贅肉をたっぷりとぶら下げた、球形に近い体を転がしながら、自分自身の恐怖心を振り払うかのように逃げ続けた。

(畜生、畜生、畜生!!!!!!わたしが何をしたって言うんだ!!!!馬鹿野郎!!!)

わたは心の中で何かをののしり続けた。
いったい何がいけなかったのか。
2ch住人達を利用して自分の作ったFlashの宣伝にも成功した。
2ch住人たちの目を盗んで、モナーを拉致してavexとのパイプをつくり、クリエイターとして専属契約を結ぶ事もできた。
VIPやラウンジ、ニュー速などの板の、自分たちに反抗的な連中も時間はかかったが黙らせる事ができた。
2ch内のありとあらゆるAAの権利を取り上げて商業化することもできた。
だというのに・・・・!!!
だというのに何がいけなかったのか。
全てが順調だった。
何もかもを騙し尽くし、利用しつくし、搾り取って、踏み台にしてやるつもりだった。
avexさえも、2chさえも。

だが革命王子が、あのコテが突然クリエイター二人の首を叩き落して目の前に現れた瞬間、全てが崩れる音を聞いた。
今まで自分が積み上げてきたものが、奪い取ってきたものが、足がかりにするはずだったものが、全て瓦解してしまった音だった。
avexの全てに守られていた自分は安全だと思っていたのに、あの革命王子というコテが!!!!

・・・・・・
・・・・・・・・いや、違う。

この崩壊の音は前から聞こえていた。
2chのAA達の権利を奪い取ってavexに差し出したときも、VIPの連中をねじ伏せて過疎板にしてやった時も、反抗的な板を潰してやったときも、寝ているときも、ピザ食っているときも。
ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、ずっと聞こえていた。少しずつ、少しずつ、だが確実に何かが壊れていく音が。
いつからだったか?

・・・・そうだ、モナーを騙してさらって、2ch住人を相手に騙し続けて”上”への足がかりにしてやろうと決めたときだ。

なんと言うことは無い。
自分は何も積み上げていなかった。
踏み台など、どこにもできていなかった。

ただ、落ちていたのだ。
自分でも気づかぬほど、少しずつ。

そう理解した瞬間、とてつもない恐怖がのどの奥からせりあがってきた。

―――――なんという事だ。

私はとんでもない事をしてしまった。
取り返しのつかない事を、者達を裏切ってしまった。
私は取り返しのつかない事をしている。
そのツケが回ってきたのだ。

わたは走りながら神に祈った。

―――――神様!!!お願いです!!!助けてください!!!生き残る事ができたなら、心がけを一新して清く正しく生きます。
お願いです。助けてください。もう何も裏切りません。奪いません。踏みにじりません。欺きません。謀りません。
だから、だから、だから―――――

それは祈りでもあり誓いだった。
今まで周りの全てを利用して、切捨て、我侭に生きてきた女の生まれて始めての、本音をさらけだした心のそこからの誓いだった。

わたは今や涙と鼻水を垂れ流しながら走っていた。
どこをどう走っているのか、何故走っているのか、わた自身にも分からなかった。

――――助けて!助けて!!!助けて神様。

その神への祈りが届いたのか、ある部屋に飛び込んだとき、まわりに人が居るのに気がついた。
当初、わたはそれを敵だと思った、いや、人影その物が恐怖の対象だった。

わた「ヒッ・・・・・・・ッ!!!!」

鼻水と涙、涎、顔からありとあらゆる体液をまきちらしながらわたはその場で身をすくめた。

「わたさんじゃないですか、何やってるんですか?」

唐突に周りに居た人間たちの一人が話しかけてきた。
ZENの黒服だった。
よく見ると自分が飛び込んだ部屋はサーバーのある部屋だった。
どうやらがむしゃらに走り回っているうちにここにたどり着いたらしい。
黒服達はここの警備をしているのだろう。

わた「・・・・・・・・・・・・・・・」

わたは黒服を静かに眺めると、顔中から垂れ流している体液を手でふき取った。

――――部下、いや、踏み台ができた。

その単純な事実が彼女に力を与えた。

わた「あんた達、何呆けた顔してんの!!!連中の狙いはここなのよ!!!シャキっとしなさい!!」

顔に一瞬で力を取り戻すと、彼女は出陣前の兵を鼓舞する将軍のような厳然とした口調で言った。

数秒前の、神への誓いは完全に彼女の頭から消えていた。


 

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