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騎士の持つ剣は今や血と脂でほぼ完全に切れ味をなくしていた。
背後から飛び掛ってきたビーグルを切れ味の鈍った剣で力任せに叩き切る。

―――いったい何匹のビーグルを切っただろうか。
―――――40、いや50は切った。
そんな考えを巡らせながらもその手は飛び掛ってくるビーグルの口腔に剣を突き入れている。
やがて騎士の前に巨大な影が立ち塞がった。
ゾヌだ。
ギコの規制銃、ブーンの田代砲をまともに受けても全くこたえたようには見えなかったゾヌも、
いまや全身を銃創や切り傷だらけにしていて、その足取りはどこか不確かだった。
しかし、それでもゾヌの目には苦痛や怯えの色は無かった。
いや、苦痛や怯えだけでなく、ゾヌの目からは怒り等の一切の感情が無かった。

(・・・・・妙な処理を施されてるな。)

騎士はそう思いつつもゾヌを見据える。
ゾヌの感情の無い目が騎士を捕らえる。
と、次の瞬間にはゾヌは騎士に向けて突撃している。

ゾヌの足は、その異常なまでに大きな頭部を支えなければならない。
大きいということは重量があるということで、要するにゾヌの頭部に比べて小さすぎるとも言えるゾヌの足には、
頭部を支えるための細く密集した強靭な筋肉が詰まっていた。
その脚力から生まれる突進の際の加速力は常軌を逸していた。
巨体にも関わらず、ゾヌのトップスピードは騎士のそれと比べても全く遜色が無かった。
現在は全身の傷によって幾分か動きが鈍っているとは言え、ゾヌの突進には騎士には無い圧倒的な重量と質量があった。

ゾヌと騎士の間に居たビーグル達がゾヌに噛み砕かれ、踏み潰されて絶命する。
騎士はゾヌの突進に対抗すべく、自らもゾヌに向かって走り出す。
赤い風と化した、体中に返り血を乗せた騎士の影がゾヌに衝突するかと見えた瞬間、騎士は持てる脚力のすべてを総動員して、
その身を左へと軌道修正する。
そして、ゾヌが騎士の右側を通過しようとするのにあわせて、騎士の剣がゾヌの顔面に叩きつけられる。
渾身の力を持って叩き込まれたその一撃は、ゾヌの顔に少し食い込むと、ゾヌと騎士がすれ違うのにあわせてゾヌの顔面の傷を広げていった。

『ゾヌは急には止まれない』
ゾヌは素早く止まって後ろに下がろうとするのだが、自らの重量と質量が仇になり、減速しようとしても止まることができない。
騎士は右手でゾヌに叩き込まれた剣の柄部分に左手を乗せ、ゾヌのスピードと重量に剣が持っていかれないように必死に支える。
騎士の斬撃の勢いと騎士自身のスピード、ゾヌの殺しきれて居ない自らのズピードと重量、これらの要因が重なり、ゾヌの顔面の傷は加速度的に広げられ、深められた。

(――――浅いッ!)

だが、普段なら致命傷となるはずの一撃は、血と脂にまみれた騎士の剣からでは十分な威力を発揮することはなかった。
騎士は今すぐにでも新しい剣のAAを打ち込んで持ち替えたかったが、この乱戦のさなかにAAを一瞬で打ち込んで持ち帰られる程、自らのタイプスピードに自負は持っていなかった。
ゾヌは顔に傷を作りながらも、再び騎士にむけて突進しようと、右足を軸足にして振り返ろうとする。
しかし騎士は、ゾヌの巨体と重量のために時間がかかるその動作を見逃さなかった。
振り返ろうと、軸足を残して顔だけが騎士の居る後方に向こうとしているゾヌの額に騎士の剣が差し込まれる。
切れ味を期待できない以上、できるだけ相手に大きなダメージを与えようとするなら、釘を刺すように剣先を突き入れるしかなかった。
騎士の手に握られた剣が半ば近くまでゾヌの額にめり込む。
ゾヌは苦痛を感じた様子は無く、冷静に騎士を振り落とそうと頭を一定のリズムで振り回す。
だが騎士は振り落とされない。

逆に両手に剣を握ったまま左足をゾヌの鼻の上に、右足を剣の鍔にかけて、思い切り右足に力を込める。
締まった硬いゴムに無理やり針を差し込むような感覚と共に騎士の剣が鍔元まで突き刺さった。
騎士がゾヌの頭から飛び降りると、ゾヌはしばらく固まったかのように動かなくなり、やがて地に倒れ付した。

歓声が上がった。
騎士が周りを見回すと、いつの間にかビーグル達は掃討されていた。
どうやら騎士の倒したゾヌで最後だったらしい。
半分以上の名無しやコテ達がビーグルやゾヌの牙に持っていかれていた上、生き残った者たちも満身創痍だったのだが、構わずに彼らは腕を高く掲げて勝どきをあげた。


その時、奥の扉が開いた。
勝どきが止まる。
扉の奥からぞろぞろと出てくるAA達。
騎士や生き残り達がその手を止めて呆然としている。
百を超える数のAAが隊列を作って扉の近くに並んだ。
コピペで増やされたゾヌの大群だった。
先ほどのゾヌと同じく、表情からは一切の感情が感じられない。
コピペ処理を十重近く施されたその自我は完全に細分化され、表情や感情を表現できるだけの意思はひとつひとつのAAには残されていなかった。
ゾヌ達が突進するべく足に力をいれ、重心を低くする。

騎士が剣のAAを打ち込んで両手に構える。

そのゾヌ達が一斉に突撃を開始した。
横に列を作って一斉に突撃してくるその様は、壁が迫ってくるかのようだった。

騎士が雄たけびを上げて疾走を開始した。
生き残っていたコテや名無したちもそれに続く。
全身に傷を負っていた彼らでは正気は限りなく薄いだろう。
いや、そもそも万全の状態だったとしてもこれだけの数のゾヌ達を相手にどれだけ立ち回れるかわからなかった。
それでも彼らは退かなかった。
自分の命が尽きるまでに、一匹でも多くのゾヌを道連れにするつもりだった。

突撃していく騎士たちを隊列をなしたゾヌ達が蹂躙するかと見えたその時、
突進してくるゾヌの頭がはぜ割れた。
次いで、数匹のゾヌが銃弾を受けて少し動きを鈍らせたり、田代砲による爆撃で頭を弾けさせた。
頭を破壊されて転がったゾヌに、近くのゾヌ達が足を取られてあっという間にゾヌ達の隊列が乱れる。
騎士が銃弾や田代砲の発射されたゾヌ達の後方、奥の扉がある方向に目を向けると、十人程度の人影があった。
革命王子と共に突撃してきたコテ雑スレのコテや名無しだった。

僕は、名無しちゃん!「うはwwww王子とはぐれたwwww」
プゲラウヒョー「あの野郎、いい年して迷子になりやがってwww」
ハメ太郎「俺等が置いてかれただけだけなんじゃね?wwww」
通りすがり「今回は通り過ぎるだけじゃないお^^」

相変わらず統一感が無かった。 


 

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