扉 第一部 第二部 第三部 第四部 終章 後書 絵師 辞典 出口
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その部屋に入るなり、僕の前を駆けていたギコさんの足が止まった。
ギコ「今度はお前か・・・・・。」
ギコさんが小さな、本当に小さな声でなげいた。
僕はギコさんに追いつき、部屋の中に入る。
その部屋では一人の全身に毛を生やしたAAと一人のコテが既に戦いを始めていた。
フサギコとピストンだった。
フサギコの手には二挺の拳銃、ピストンの手には一本の特殊警棒。
周りにはピストンがその特殊警棒で叩き殺したのだと思われる警備員や死体が累々と横たわっている。
フサギコの銃口から銃弾が放たれるたびに、その銃口の斜線上にピストンの特殊警棒が伸びる。
銃弾はロッドに弾かれてあらぬ方向へと飛んでいく。
ピストンはその兆弾には目もくれずに一足飛びにフサギコに接近し、特殊警棒を振るう。
するとピストンの握る40センチ程のつや消しのために黒く塗られた無骨な三段式の警棒が一瞬で伸長する。
倍以上の長さになった特殊警棒をフサギコは紙一重でかわすと、素早く接近したピストンの腹に銃口を押し付けて引き金をひく。
しかし、銃口が押し付けられたときにはピストンの特殊警棒はその銃口と自分の腹との間に潜り込んでいた。
特殊警棒ごしに衝撃がピストンを襲い、吹き飛ばした。
二人の距離が離れる。
・
その頃にはピストンの握る特殊警棒は元の長さに戻っていた。
おそらく正確な自分の得物の長さを測りづらくするため、三段式の警棒を押し込んだのだろう。
僕とギコさんが部屋に入ってきたことに気づくと、二人は距離を取ったまま僕たちの方へと意識を向けた。
フサギコに目立った傷跡は無い。対するピストンには、銃弾が掠めたであろう傷がいくつかできていた。
どうやらピストンが押されていたらしい。
そのせいかピストンはばつが悪そうに僕たちのほうを見た。
ギコ「おまえも革命王子と一緒に突撃してきたのか。で、当の革命王子本人はどこ行った?」
ギコさんがピストンに問うた。
ピストン「シラネ。途中で戦った警備員の敗走してった奴らを追いかけてどこか行っちまった。」
ピストンがフサギコへの警戒を緩めずに答える。
それを聞くとギコさんはピストンから視線を外し、フサギコを見る。
・
ギコ「何故avexなんかのために戦う?」
ギコさんが無表情に尋ねた。
フサギコ「・・・・・・・・・・・・」
フサギコは黙ってギコを睨みつける。
ギコ「フサギコ、おまえもコピペされて、もうまともな自我なんざ残っちゃ居ないのか?」
ギコさんがわずかな哀愁をのせて、しかし表情だけは無表情に聞いた。
フサギコ「権利を握られていないお前にはわからないさ。」
フサギコが投げやりに言った。
それはVIPの住人たちにも浮かんでいた、あのあきらめたもの特有の顔だった。
フサギコ「・・・・・・、俺が、コピペされずにここに居るという事の意味はわかるな?」
フサギコが続けた。
ギコさんは何も答えない。
フサギコがこうしてコピペで数を増やされずにここに居るという事は、
コピペで増やされて自我を失って数だけ揃えるよりも、一人とは言え自我と状況判断力を保ったままの方が戦力になると見なされたのだろう。
単純に言えば”強い”という事。
・
フサギコ「この奥の扉をくぐればは研究室なんかの情報が漏れてはいけない施設とサーバーだけだ。」
ギコから返事が何のを気にする事無くフサギコは言った。
フサギコ「鍵は俺が持っている。通りたければ俺をどうにかする事だな。」
フサギコが静かに、しかし自らの力に絶対の自信を込めて言った。
ギコさんも一歩前へ踏み出す。
ギコ「済まないがお前らは下がっててくれ。」
こいつとは俺がけじめをつける、とギコさんが言った。
僕とピストンはその声に篭った真剣な響きに逆らえず、部屋の隅からギコさんとフサギコの対峙をながめた。
ギコさんが右手に規制銃、左手に通常の銃のAAを構えた。
ギコ「・・・・・・・・・・・・・・・」
フサギコ「・・・・・・・・・・・・・・・」
二人の間に言葉は無かった。
彼らは一瞬だけ視線を合わせた後、お互いへ向かって走り出した。
・
ギコとフサギコは接近しあいながらも、ろくに狙いもつけずに前方に銃弾を撒き散らし続けた。
そして同時にお互いの弾丸の進行方向から飛びのく。
二人の放った弾丸のうち、いくつかは空中でぶつかり合い、あらぬ方向へと跳んでいく。
ギコの規制銃の弾丸にぶつかったフサギコの弾丸は”削除”されて完全にweb上から消え失せる。
ギリギリまで撃てるだけ弾丸をばら撒いたため、脚力にものを言わせて、飛びのいた後のことなど考えていなかったため、ギコは少し態勢を崩しつつもフサギコと相対しようと体をそちらへ向けようとする。
ギコには飛びのく時にフサギコの態勢も崩れているのが、一瞬だが見えた。
だが、フサギコの銃撃はギコがフサギコを視認する前に飛んできた。
(―――糞ッ、もう振り向いたのか。なんて反射神経のいいヤツだ。)
空中を飛来する弾丸の空気と摩擦を起こすわずかな音をたよりに前転し、弾丸をかわす。
しかし、かわしきれずにギコの足を弾丸が掠める。
転がりながらフサギコに狙いを定めたギコは驚愕した。
フサギコは振り向こうとしていなかった。
背後へと回されたその腕から硝煙の上がる銃口が見えた。
・
(―――適当に俺の居る場所にアタリをつけて撃ちやがったのか?)
ギコはそう思いながらもフサギコの背中に向けて発砲する。
しかしフサギコはまるでその弾丸が見えているかのようにその場から飛びのく。
ギコが急いで立ち上がりその場から離れる。
離れた後を追うようにして銃弾によって地面に穴が穿たれた。
(―――どうなってんだ!!?)
ギコは混乱していた。
確かにフサギコはこちらをろくに見ずに、正確にギコの居場所を狙って射撃してくる。
フサギコの射撃技術は、以前戦ったVコテの精密射撃とも違った。
Vコテの場合は敵を視認してから照準を合わせるまでの時間を極端に短縮した末、生み出された神業なのだが、
フサギコの場合は、敵を視認する前から狙いをつけて発砲している。振り向いて相手を認識した時には既に発砲した後なのだ。
ギコもフサギコを見る前に、足音等から適当にアタリをつけて八方するが、どうしても狙いは曖昧になる。
フサギコは意図も簡単にギコの放つ鉄の牙の作る斜線上から体をどける。
適当な狙いのおかげで敵へのダメージは期待できないが時間稼ぎにはなった。
ギコは急いでフサギコから距離を取る。
・
ギコ「お前、後ろが見えてるのか?avexに頼んで背中に目ん玉でもつけてもらったのか?」
お互いに離れて銃を向け合いながら、ギコが皮肉を篭めて言った。
フサギコ「忘れたか?俺は犬だぜ?てめーの匂いがどうやって移動してるか、その匂いを突き抜けてどうやって弾丸が飛んでくるのか手に取るようにわかるんだよ。」
まさに目をつぶっててもわかるってヤツだ、とフサギコが何でもないことのように告げた。
数瞬の後にはフサギコはギコに向けて銃弾をばら撒きながら近づいてくる。
ギコは即座に距離を取ろうと右斜め後ろに向けて横転する。
ギコとしては接近戦でお互いの体の向きが頻繁に入れかわるような事になれば、どんな方向の動きも匂いでわかるフサギコが有利なので、それだけはなんとしてでも避けたいところだった。
(さて、どうしたもんかな・・・・・・)
ギコの目は転がりつつも正確にフサギコを捉えている。
フサギコは両手の銃のAAを放り捨て、銃剣型のavex公式ページ内の削除デバイスを取り出したところだった。
横転したギコの隣を銃弾が通り過ぎていった。
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