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地面のあちらこちらから炎が吹き荒れる中、一匹と一人の”修羅”が向き合っていた。
燃え盛る炎の中で修羅同士が対峙するその様に、ギコは自分が地獄に迷い込んでしまったのではないかと感じた。
モナーの純粋な、子供のように純粋な笑顔と革命王子の、そこか吹っ切れたような、濁りの無い殺意だけを篭めた狂笑。
どちらも子供のように純粋なのだが、見る者にまったく別の印象を与える二種類の笑顔。
お互いのその笑顔が交錯したのを見たとき、その中にギコはモナーと革命王子の進む”修羅道”を見た気がした。
ピストンは革命王子の顔を見て、革命王子のその笑みが以前に見た時よりもさらに”深い”ものになっている事に気がつく。
革命王子と別れた数十分のうちに何があったのか、ピストンにはわからなかったが、革命王子の放つ殺気が以前よりもさらに大きくなっていると感じた。

革命王子「・・・・・・・・・・・・・・」
モナー「・・・・・・・・・・・・・・」

一人と一匹はもう何もしゃべらなかった。
修羅同士の間にこれ以上の会話は必要ない。
お互いがお互いに向けて跳んだ。
それは何か計算や戦略があっての行動ではなかった。
彼らの衝動や感情のままにお互いにむけて走り合った。

先手を取ったのは革命王子だった。
その手に握られた包丁をモナーにむけて投げる。
だがモナーは当然とでもいうようにそれをかわすと、その手に握る酒瓶で殴りかかる。
革命王子はそれをかわしながらモナーの後ろに回り込もうとする。
この炎の海の中で、モナーに殴られて酒瓶の中の酒が降りかかったら終わりだ。
次の瞬間には全身火達磨になって転げまわる事になるだろう。
それでも革命王子は怯まずに、モナーの攻撃を紙一重で避け、時には包丁で酒瓶を叩き割りながらモナーの死角へと回り込もうとする。
モナーも、割れた自分の酒瓶から飛び散る酒がかからぬように、移動していく。
酒がかかれば終わりなのはモナーも一緒なのだった。
モナーは革命王子の目の前の地面に酒瓶を投げつけて割る。
飛び散った破片が革命王子を切り裂き、革命王子に擦過傷を作っていく。
さらに、割れた酒瓶から飛び散った酒にさらに炎が引火していく。
次の瞬間、新たに革命王子の前に生まれた炎を裂いて、包丁が飛んできた。
モナーはとっさにその気配を感じて避けようとするが、視界が目の前にできた炎でふさがれ、その炎の気配で革命王子の動く気配が隠されたため、急いで反応する事ができなかった。
避けきれずに包丁がモナーのわき腹を軽く切り裂く。
スプリンクラーはとっくの昔に作動しているのだが、いったいどれほどの量の酒が撒き散らされたのか、まったく炎が消える様子は無い。
人口の雨にぬれた一匹と一人はさらに殺し合いを加速させていく。
まさに地獄。
部屋の中は完全に地獄の底、人外の者どもが踊るゲヘナと化していた。

ギコとピストンは彼等の戦いに完全に呑み込まれ、呆然としていたのだが、やがて我に帰ったように革命王子を援護しようとする。
だが、彼等の戦いについていく事ができない。
革命王子の動きも、モナーの動きも、速いわけでもなければ体捌きがうまいわけでも無い。
その動きは誰が、何度見ようと常人と大差無い様におもえる。

そして、だからこそ異常だった。

何ゆえこの火の海の中で常変わらぬ動きができるのか。
ギコの銃撃は燃え盛る炎によって揺らめく空気が視界を歪め、スプリンクラーから落ちる人口の雨の影響もあり、まともな狙いをつける事など不可能だった。
無理に撃てば革命王子に当たる危険性がある。
ピストンもなんとか自分が介入できる機会を探しているが、炎の中を自由奔放に駆け回り、殺しあう革命王子とモナーに、炎だらけの足場を駆けて攻撃を加える機会を見つける事ができない。

革命王子とモナーはその中を、足元をろくに見もしないというのに、酒が飛び散っていない、燃えていない足場を踏みしめて殺し合いを続けている。
彼等はその独特の感覚で炎のある場所、というより”良さげな場所”を直感で選んで跳び回っていた。
常人ならば、いや、常人でなくともこの炎の海の中を走り回り、なおかつその炎を利用して殺しあう等という芸当はできないだろう。
ギコとピストンはもはやこの戦いが人間には介入できぬ戦いだと悟りつつも、断続的に革命王子の援護を続けた。
陽炎のゆらめきの中で、炎の勢いが下がる一瞬をついて銃撃し、革命王子達までの道の炎の勢いが下がった一瞬に彼等の戦いの中に飛び込んで特殊警棒をモナーへと叩きつける。
それでも彼等の地獄は崩れない。
彼等の殺し合いの世界は壊せない。

彼等の修羅道は、終わらない。



 

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