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わた「正直、あんた達みたいな人気のあるAAは扱いづらいのよね。」

目の前でわたが僕に話しかけてくる。
その顔には相変わらずの、ぶち殺してやりたくなるような笑いが浮かんでいる。

わた「普通のAAなら脳内規制処理を一回すれば従順になるのに、2chで人気のあったAAは三回近く脳内規制処理を施さないと、反抗的で商業化できないのよ。」

2chで人気があった分、自分は2chのAAだっていうアイデンティティーが強いのかもしれないわ、とわたが言った。

――黙れ。

わた「でもね、脳内規制処理を繰り返すと、だんだん壊れて言っちゃうのよね。 心が。」

わたが自分の心臓を指差しながら言う。

わた「モナーなんてね、五回も洗脳処理を繰り返したのよ。一年半くらいで壊れちゃったけどね。」

そういいつつ、その手は部屋の奥の壁に備え付けられたモニターの操作盤を触っていく。

わた「でもどういうわけかブーンだけは十回以上も脳内規制処理を施してるのに、まったく従順な態度を取らなかったのよね。」

やがてモニターに映像が映る。
映像の中で僕にそっくりのAA、いや、本物の僕が、目隠しをされ、口に拘束具を噛まされ、拘束服を着せられたまま、壁に頭をぶつけ続けていた。
口の端から涎を垂らしながら、執拗に自分の頭を壁へと叩きつける。

わた「結局、十四回目で発狂して使い物にならなくなったわ。2chでの人気に比例して洗脳しにくくなるから、よっぽど人気があったのね。」

―――うるさい。

わた「それでね、どうしてもavexの連中はあなたを商業化したいうもんだから、私達はブーンをそのまま洗脳するよりも、私達でブーンを作るというアプローチに変えたのよ。」

僕の表情の絶望の色が濃くなっていくのを見て、わたは満足そうにうなずきながら続けていく。

わた「まず、私達はオリジナルのブーンから三体のコピペを作ったわ。でも、どういうわけか三匹ともオリジナルのように走る事もできないし、Vipper達のクオリティーと同調する事もできなかったわ。
コピペして意思が細分化された分だけ、脳内規制処理への抵抗力も弱くなるんじゃないかと思ったの」


――――うるさいって言ってんだろ!!!!!!!!

だが僕の口からその叫びは出ない。
喉の奥が暑い。カラカラに乾いている。
わけが分からない。
目の奥がズキズキと痛みのようなものを発する。

わた「次に、オリジナルをバラして、AAを構成するパーツの一つ一つを調べたの。そこから一つ一つ文字をタイプしてブーンを作ったのよ。今までのブーンの記憶を頭に詰め込んで、完全なオリジナルとしてね。そうすれば2chへのアイデンティティーも糞も無いだろうしね。」

――――コイツは何を言ってるんだ?
―――――言葉としては理解できるが内容としては僕の頭に入ってこない。
――――――僕の頭が理解する事を拒絶している。

わた「三十体作った新しいブーン達の中で、貴方はどういうわけかうまい具合にオリジナルの記憶を転写できなかったから廃棄しようとしたんだけど、一瞬の隙をついて逃げ出しちゃったのよね。」

けれど、その貴方だけが唯一Vipper達のクオリティーに同調できて、オリジナルのように走り回る事ができたのだから、皮肉なものよね。
わたがそう言った。

わた「それとも、逃げ出してVIPをしばらく放浪してVipper達と直に触れ合ったのがよかったのかもしれないわね。どっちにしろ、貴方以外のブーンは、脳内規制処理での洗脳はしやすくなったけど、全くブーンとしての役割を果たせそうになかったから処分したわ。」

わたが部屋中においてある容器の中身を指差した。

僕の膝が崩れる。

わた「でも、貴方なら商業化にもちょうどいいわ。どうせ2ch住人以外はあなたが本物のブーンかどうかなんて大して気にしないんだから。」

わたはまだ何か喋っているが、僕の耳には届かない。

しかし、僕の思考が絶望の海に沈んだとき、唐突に部屋全体が震えた。

サーバーが、音を立てて壊れ始めたのだった。

 

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