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「おい、起きろ。」

頬を叩く警棒で僕は目を覚ました。

「わたさん、起きてください。」

目を開けると、黒服の一人が鼻を折って気絶しているわたを起こしていた。
おかしい、目を開いてるつもりなのに視界が狭い。
目が晴れ上がっていてうまく開けないようだ。

わたは目を覚ますと、両肩を掴まれて精肉場の生肉よろしく吊り下げられている僕を見てニヤニヤ笑い始める。
折れた鼻から血が一筋たれ、それがわたの顔から滲む脂汗と混ざった。

わた「あらあらブーン、随分おとなしくなったのね。」

ニヤニヤ笑いのまま僕に話しかける。

( ^ω^)「・・・・・・・・・・・・・・・」

僕はもちろん何も答えない。
目の前のピザにいちいち言葉を返すのが腹立たしいというのもあるが、喋る気力などわいてこなかった。

わた「・・・・・・・・・・・・・・!!!!」

わたは僕のその様子を、自分を馬鹿にしていると受け取ったのか、怒りに身を振るわせる。
本当に気の短いヤツだ。
だが、唐突にわたの怒りの痙攣が止まる。

わた「まあいいわ・・・・。何時までそんな人を食った態度が取れるのかしらね。」

鼻血と脂汗にまみれたその顔に余裕を滲ませながらわたが言った。

わた「連れて行きなさい。」

わたは顎でサーバーのある部屋から続く通路の一つの奥を示す。
黒服たちはうなずく事もせず無言のまま、僕の両肩を掴んで吊り下げたまま歩き始める。
僕はどこかで見た事ある風景に戸惑いながらもその通路を引きずるように運ばれていく。

そうだ、僕の失った記憶の中で僕は確かにこの風景を知っている。

( ^ω^;)「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

・・・・・よく考えたら僕は記憶をなくしていたのだった。
今まであまり不自由しなかったので全然意識していなかったが・・・。

僕がそう思っていると、やがて一つの扉の前にたどり着いた。
わたはその扉にIDとパスワードを打ち込むと、黒服たちには外でしばらく待っていろと言い残し、さっさと入っていってしまう。
やがて中からガチャガチャと者をかき回す音や、何かの箱や容器を開ける音が聞こえてくる。
五分ほどすると再び扉からわたが顔を出す。
何かを右手にぶら下げながらニヤニヤと憎たらしい表情をして僕の顔を覗き込む。

わた「あんた、記憶が無いんだってねえ・・・・。」

はい、僕自身もさっきまで忘れてましたが記憶がありません。

僕は突然何を言い出すのかと思いながら彼女が腕に握っている物を注視する。
わたは僕のその視線に気づくと、手に握っていたものを掲げる。
わたの笑いがさらに深くなる。
わたが握っていたのはAAの手だった。

僕の表情がこわばる。

わた「ああ、コレ?あんたの先代のよ。」

わたが今に声を出して笑い転げんばかりのニヤニヤ笑いを浮かべて、手に握ったAAの腕を突き出す。
肘から先だけの、切り取られたような腕が僕に向けてさらに突き出される。
その手には見覚えがあった。
僕の鼓動が早くなる。

わた「中にもっと転がってるわよ。」

わたがなんでもないことのように、つまらなそうに、少なくとも声色だけはそう装って言った。
その表情には隠し切れない内心のあざけりが漏れていたが・・・。

僕はまわりの黒服たちの拘束を気にも留めず、部屋の中に進もうとする。
黒服たちは僕を押し飛ばして拘束を解くと、一歩後ろに下がる。
押し飛ばされた拍子によろめきながらも、僕は部屋の中に入っていった。
歩いた瞬間に、足に走る激痛。骨にヒビくらいは入っているかもしれない。
僕は部屋の中を見回す。
部屋の中にはいくつもの縦長の円柱型の容器。
中には変な液体と、肉片。

それを目にした瞬間、僕の頭の中に警報が鳴り響く。
僕の心臓の鼓動がさらに加速していく。
容器の中にちらばる肉片はバラバラになったAAだった。
そのパーツには物凄く見覚えがある。
見てはいけない、僕の本能がそう告げる。
一刻も早くこの部屋から出なければならない。
だが、僕はそれから目を話す事ができない。
やがて、液体に満たされた容器の中に浮かぶバラバラのAA達、その中のAAの一つの頭部が僕のほうを向いた。

―――見覚えがあるわけだ・・・。

それは、いや、それ等は、



細切れにされた僕自身だった。

わた「ようこそ、あんたの生まれ故郷へ。」

わたが毒の漏れ出すような笑いと共に言った。

なるほど、どうりで記憶なんて無いわけだ。

最初から僕はブーンじゃなかったんだから。

 

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