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・・・ああ・・・・何という事だろうか。

わたは通路を公式ページの外に向けて疾走していた。
今こうしている瞬間にもサーバーが落ちてこのページが瓦解してしまうかもしれない。
そんな恐怖にさいなまれながら走り続けた。

つい数十秒前まで生意気な態度を取るブーンに惨たらしく彼の正体を教え、その絶望を眺めて悦に浸っていた彼女は、サーバーが処理能力の限界を迎えてラグが発生した瞬間、何もかも放り投げて逃げ出していた。
革命王子がクリエイター達の談話室に突如現われた時もそうだったのだが、彼女の危険を察知し、回避しようとする力は既に常人の域を超えていた。
殺気や危機を感じ、怯えるより早く、感情や思考よりも早く、まず逃走に移る。
それは今まであらゆるものを利用して、踏み台にするという彼女の世界に対するスタンスから自然に身についたものなのかもしれない。
彼女が抜け出した瞬間に、サーバーのラグが発生し、サーバーのある中心部に近いその部屋の天井は崩れてしまった。
あの部屋に居た黒服達は部屋の崩壊に巻き込まれてしまっただろうが、彼女の知ったことではない。
だが、今彼女の心を覆っているのは恐怖だけではなかった。
彼女が2chを売り払い、AA達の権利を剥ぎ取り、AA達の心を壊して、あらゆるものを踏みにじりながら手に入れた彼女の地位の象徴ともいえるavexの公式ページが崩壊を始めたのだ。
彼女が革命王子から逃げていたときに感じたどうしようもないほどの喪失感、何かが壊れて崩れていく感覚。
それが再び彼女の喉までせりあがってきていた。

やがて、サーバーのあるページ中心部から離れ、比較的にサーバーの起こす振動が弱い区画まで来たとき、彼女は喪失感と共に希望を感じていた。
もしかしたら生き残る事ができるかもしれない。
まだまだ彼女がページから脱出するには、今までのペースで、全力疾走し続ける事ができたとしても五分以上かかるのだが、恐怖と喪失感で完全に麻痺した彼女の理性はその小さすぎる希望にしがみついた。

だから彼女は気づかなかった。
自分に近づいてくる”危機”に。

突然彼女の両足が撃たれた。
彼女は撃たれた足の激痛で、そのままもつれるように倒れこむ。
前のめりに倒れた彼女の体は、その丸い体型のせいで二回、三回と地面をバウンドしながら転がる。
壁にぶつかってやっとその回転が止まると、わたは激痛に歪む目の中でその光景を見た。
通路のあちこちに両足を撃ちぬかれて動けずにうめいているavexの職員や警備員が転がっていた。
そして、転がっている職員や警備員に質問を浴びせかけている男が居た。
少々陰気な感のする、感情を感じさせない顔で、淡々と質問をしている。
馬愚那だった。

馬愚那「てめぇは神ですか?」

馬愚那に尋ねられた男がいいえ、と答える。
すると馬愚那が

馬愚那「期待させんなクズ」

と、全く感情の篭っていない声で、大してその答えに興味がないかのように男の頭を撃ちぬく。
そして、その隣に倒れこんでいる別の男に再び同じ問いを浴びせかけた。

馬愚那「てめぇは神ですか?」

先ほど、自分の同僚が否定して殺されたのを見たその男は、すかさず「はい」と答えて何度も顔を上下させた。
するとやはり馬愚那が無表情のままにさらりと、

馬愚那「神なら最後まで作った者の義務を果たせ。無責任すぎんだよ。」

そういって答えた男の頭を撃ちぬく。

馬愚那「神の癖にあっけないな。偽者かよ。死ね。」

いや、もう死んでるか、と額に穴を開けた男の顔を蹴り飛ばしながらつぶやく。
足を打たれて悶えるわたの眼前で、馬愚那はそういった問答を繰り返した。

次に質問された男は何も言わずに首を横に振るばかりだった。
馬愚那も何も言わずに男を撃ち殺した。
その次に質問された、職員らしき女は泣き叫ぶだけだった。
馬愚那は煩そうに、無表情だった顔をしかめながら撃ち殺した。
さらにその次に質問された警備員らしき男は、いつの間にか手に握っていた削除デバイスを倒れ付したままの姿勢で撃とうとするが、あっさりその腕を馬愚那に撃ち抜かれ、削除デバイスを取り落とす。
その行動を答えと受け取ったのか、馬愚那も警備員の頭への銃撃で答える。

わたはその隙に両腕を使って這うように逃げようとするが、それに気づいた馬愚那に両腕の腱のあるあたりを打ち抜かれる。
わたは絶叫しつつ、さらに肩で蛆虫のように這おうとするが、その歩みは蝸牛のそれのように遅く、その間にも馬愚那の質問の”順番”は自分に近づいてくる。

彼女は這いながらも必死にその脳内で思考を展開していた。

―――どうすればいい?
――――どうすれば生き残れる?

いくつもの、馬愚那の問いに対する答えが浮かぶが、そのどれもが生き残れるという可能性を見出せるものではなかった。
そうこうしているうちに馬愚那の問いの順番が自分に回ってきた。
這い続ける彼女の背後から馬愚那が歩み寄ってくる。

―――――まずは時間を稼がなければ!!!
――――――そうだ、逆にこちらが質問し返してやって、その隙に会話の主導権を握って時間を稼げれば!!!

彼女の脳みそがありえない打開策にすがりついたその時、馬愚那が口を開く。

馬愚那「てめぇは・・・・・・・」

だがどういうわけか馬愚那の質問が途中で止まる。
わたが、はて?と疑問に思い顔を上げると、馬愚那が続けた。

馬愚那「・・・どう贔屓目にみても神じゃないよな。」

というかこんなピザが神だったら俺は絶望して自殺するぞ、と言いつつあっさりと引き金をひいた。
わたは彼女の脳内に流れたあらゆる現状の打開策とともに、思考を完全に停止させた。
わたの顔は口をあんぐりと開いて「そりゃあないだろ」とでも言いたげな表情をしていた。
妙にシュールな死に顔だった。

 

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