第一部 第二部 第三部 第四部 終章 後書 絵師 辞典 出口 


         10 11 12 13 14 15 16

 

モララーは内心焦りで一杯だった。
今や常時笑みを張り付かせてみたその顔にはハッキリと焦りが浮かんでいた。
一般的に銃は中距離、遠距離でのみ真価を発揮し、近距離戦では銃の威力はそれほど発揮できないと思われがちだ。
殴り合いになれば相手が銃を構えるのと同じ速さでこちらも相手を殴れるからだ。
だが、それでも相手の銃の持つ圧倒的な殺傷力が無くなるわけではないし、接近戦になればむしろ遠距離戦で狙いをつけるよりも簡単に相手を狙いやすくなる。
揉み合いに近い状態になれば狙いをつけるどころか、相手に銃口を押し付けて引き金を引くだけでよい。
使う者が使えばロングレンジでもショートレンジでも十分な威力を発揮する武器、それが銃だった。
そして、ギコはその”使う者”だった。

しぃからの援護は期待できそうも無い。
傍目にはモララーが振るう包丁を大口径の規制銃の銃身で必死に受け止めるだけの防戦一方に映っているのだろう。
だがその銃口は、包丁を受け止めながらも常にモララーを射程に入れようと動いていた。
しかし、傍目うんぬん以前に、こうも接近して戦っていてはモララーに弾丸が当たる可能性もある以上しぃは銃弾による援護はできないのだった。

(――糞ッ!!接近戦で包丁を持った俺が押されるとは!!!糞糞糞糞糞糞k(ry )

モララーはギコに揺さぶりをかけるべく、わざとギコの持つ規制銃に受け止められて膠着状態にあった包丁をギコの銃身を滑らせてその勢いで違う場所を切りつけようとする。
だがギコは冷静に、包丁に意識を払いつつもその銃口でモララーの心臓に狙いをつける。

(――糞が!!!!)

その狙いを外すべく、急いでモララーはギコの持つ規制銃の銃身に包丁を叩き込んで的をずらした。
発砲音。狙いのずれた銃弾がモララーの左肩口を灼熱とともに通り過ぎ、”削除”していった。
この時、モララーがそのまま包丁をギコに突き入れていれば、半々程度の確立とはいえ、ギコの発砲よりも早く敵に致命傷を負わせることが出来たかもしれない。
だが、彼は退いてしまった。

心臓というあからさまな人の急所を狙う事による精神的なゆさぶりもあったのだろうが、彼は思ってしまった。
”間に合わない”、”やられる”と。
そして”生物”としての彼はそう思い、勝負を捨ててナイフを防御に回した瞬間に、わずかその一瞬に、だがどうしようもない程完全に”負けていた”のだった。

そしてその事には遠くから狙いをつけつづけ、ギコがモララーと距離を取ろうとするたびに銃撃を放っていたしぃ自身も気付いていた。いや、気付かされた。
よくよく見てみれば、何時の間にか戦況は、「距離もとれずにモララーの包丁を必死に受け流し続けるギコ」から「狙いを逸らすためにギコの銃口に包丁を受けながさせ続けるモララー」へと攻守が完全に逆転していた。
そして、そのモララーが勝負から退いて防御に回った瞬間、しぃはやっとその変化に気付いた。
おそらく、理性としてのモララーは否定するだろうが、本能としてのモララーは完全に敗北した、と。

肩口を傷つけられたモララーは本能が警告するままにギコから距離をとろうとする。
だが、距離をとろうと後ろに後退すると、再びギコの銃口が彼の心臓を狙おう動いた。
彼はこのまま打たれることを覚悟で下がるか、再び斬撃を叩き込んで狙いをはずすか、躊躇した。

(・・・・・・・・・ッッッッツ!!!!!オイオイオイオイオイオイオイこれじゃあ逆じゃねーか!!!!何時の間にか俺が接近戦から逃げられなくなってんぞ!!!!!)

一瞬だがモララーの動きが思考と共に停滞する。
その瞬間を見逃すギコではない。
ギコが銃口をそのまま迷わずに狙いをつけ、引き金を引こうとする。
しかし、隙を見逃さないというのなら、先ほどから離れて狙いをつけ続けていたしぃとて同じだった。
彼女はギコとモララーの間に、だんだんとギコに近づくように連続して銃撃を見舞った。
しぃの援護にきづいたモララーはギコが銃撃から逃れるように物陰に隠れるのを見て、自らの体を手じかな物陰に潜ませた。

(畜生。糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞、糞ったれのド畜生がッ!!!)

規制銃によって”削除”された左肩口の痛みと共にかれは何に対してなのかわからない呪詛を呟く。
軽傷とはいえ規制銃によって負わされたその傷は、彼に尋常ではない痛みと灼熱間を与え続けていた。
これでは左手の振るう包丁にはわずかながら遅滞が出るだろう。
そしてその遅れがギコとの戦いでは命取りになるのは明白だった。

だが、彼の理性だけでなく、本能までもが先ほどの攻防や理屈を通り越したところで負けを認めては居なかった。

(ギコの野郎!!!ぜってーぶっ殺してバラバラにしてやる!!!!この俺様に怪我させるなんざ許せねえ!!!許す訳がない!!!許す価値がない!!!!)

だが、唐突にその思考は中断させられた。
彼の後頭部に硬いものが押し付けられた。

モララー「んぁ?」

モララーが振り向く。
だがそれから放たれた銃弾はモララーが何かアクションを起こすよりも早く、モララーの頭蓋をあっけないほど簡単にに破裂させた。
あっけない破壊力は何もかもをあっけなく破壊する。
その銃弾はモララーの頭だけでなく意識さえもあっけなく吹き飛ばした。




NEXT→

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送